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【ブログ小説】おすすめの青春書下ろし!うたかたの夢(第三話)

まろはだいまろ。思い出は頭の中に、想い出は心の中に。いつでも取り出せるようにしていても、取り出した試しがない。そうであれば、文字に起こそう。記事に残そう。振り返っても何も悪くない。立ち止まっても誰も咎めない。淡い追憶をその手でしっかりと。

大学生の時分、面白くもないごく平凡な日常に絶望し、本気で音楽で大成しようと考えた浅はかな青春をほぼノンフィクションで描きます。夢とは一体なんなのか?叶えるだけが夢?いや、ひと時だけ見た希望も立派な夢なんだと強く思います。そんな迷走した大学生の一つの「夢」を感じてみて下さい。

 

第三話:前編

街はすっかりクリスマス色に染まりきっていた。花屋の軒先にはポインセチアが所狭しと並び、神戸三宮の東遊園地にはイルミネーションが静かに灯っていた。

「お待たせ。今日も寒いね。」

黒いダッフルコートを身にまとい、白い吐息を漏らしながらスズがやってきた。とうとう初ライブの前夜となり、最後の調整に余念がない。いつになく饒舌なスズと、いつも以上にタバコをふかすゴウ。どこか落ち着かない雰囲気ではあったが、心地よい緊張感が貸スタジオを支配していた。

そして、ついにその日を迎えた。東神戸方面のとある小さなライブハウスが舞台であった。ここは、高校時代からよく利用していて、ぼくがライブデビューした場所でもある。周りの協力も得て、それなりの観客数が見込まれていた。なんと開演5時間前に楽屋入り。心の準備がいるから早く入りたいとスズとゴウ。あまり早くに入りすぎるのも心臓に悪い。特にスズは落ち着かない様子で意味もなくウロウロとステージを行ったり来たり…。

そして、ようやくリハーサルのコールが告げられ、3曲ほど流して演奏した。なかなか良い出来ではないか!3人は顔を見合わせ手応えを感じた。

「初ライブでしょ?良い感じじゃない、頑張りなさいよ!」

スタッフのYOUさんが声を掛けてくれた。この人には、高校時代からお世話になっていて頼れるスタッフだ。ウェービーな黒髪に、彫りの深い日本人離れした顔立ちが特徴的だった。そして、続けてYOUさんが言う。

「お嬢ちゃん、緊張してるね。顔上げてニッコリ笑顔で!大丈夫、今日は貴女が主役よ!」

ぽんっと肩を叩かれ、スズの口元がようやく緩んだ。これまで人前に立つこともほとんどなく、緊張はピークに達していたようだ。無理もない。これから経験を積んで、ゆっくりと緊張をエネルギーに変えていければ良い。そんなスズにとって、そしてdropにとって重要な一歩を踏み出す時が刻々と近づいていた。

 

「んちゃ!ちゃんと来たで。頑張りやぁ。」

初めに現れたのは、やはり彼女。顔の半分以上が隠れるオレンジのサングラスに、エスキモーのような毛皮の帽子。今日もパンチの効いたコーディネートでマアのお出ましだ。今やdropのマネージャーとも言うべきか、たくさんの観客を引き連れてやってきた。スズの顔が自然とほころぶ。そして、次々と会場には人が押し寄せ、ついに開演の時。

ぼくがMCを担当、くだけた冗談を交えつつメンバー紹介を進めていった。ステージからの眺めは本当に素晴らしい。ぼくは改めて忘れかけていた感覚に酔いしれると同時に、観客席の端のほうでじっと見ている女性が目についた。色々な人が来てくれてるんだと高揚した。

始まってしまえば早いものだ。対バンといって、他のバンドと合同で開催するライブのため、各バンド5曲のハウスルールがあった。時間にして30分程度である。なかなかの盛り上がりをみせ、最後の曲「Priceless Peace」となった。このナンバーは、スズがメインボーカルを担当し、独特な世界観を前面に押出したスローバラードだ。その後も、dropの定番ナンバーとして生き続けた。

彼女は堂々と、そして気持ち良さそうに唄い遂げ、鳴り止まない拍手の中、無事に初ライブの幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

第三話:後編

「めっちゃ良かったやん、スズ!ダイもやっと踏み出せたな!ゴウちゃん、あんたピアニストやろ?まじでやばかったでー!」

戻った楽屋の前で、マアの激励がお出迎え。本当にこいつは何者だ。しかし、その暖かさに包まれながらdropは3人で喜びをかみしめていた。控えめに言っても大成功だ。

そして、ぼくはゴウと2人で寒空の中、タバコを吸っていた。浮かんでは消える白いモヤは、煙なのか吐息なのか分からない。遠くを見つめ、無言で語り合っていた。

そこにスズが、1人の女性を連れて現れた。

「あなたがダイくん?」

「あっ?!」

ライブが始まるときに端っこにいたあの女性であった。

「2人ともごめん。実はお母さん。変に気を遣ってプレッシャーになるかと思って黙ってた。」

開いた口が塞がらないゴウとぼく。続けてスズの母親が口を開く。

「ごめんなさいね、どうしてもスズを見たくて来ちゃった。本当に良かった、こんな生き生きしたスズを見るのいつぶりだろう。ありがとう、応援しています。」

「こちらこそ、ありがとうございました。」としか、返せない2人。ただ、その親子の幸せそうな笑顔を見て、本当に良かったと心からそう思った。絶望が希望に変わったのだ。ふと夜空を見上げれば、やけに明るい満月であった。

 

気づけば年を越し、1月の終わりには新年ライブもやり遂げた。一度、噛み合った歯車は堅調に回り始め、すべてが上手くいくものである。そう信じて疑わなかったある日、スズからの突然の電話。

「もう、いやや!ぜんぶいやや!なんであたしは好きに生きちゃあかんの!

それ以上は多く語らず、何が起きたのか分からなかった。順風満帆であっただけに、見当すらつかない。会って話そうと試みるも面会拒否。ただならぬ心の傷を負っているようだ。仕方なくぼくは、落ち着いたらもう一度連絡してくるよう諭した。こうして事実上、理由も分からないまま活動停止となってしまったのだ。

 

「あいつ、何があったんやろ。やっぱり心配やし、様子見に行かへん?」

大学のそばにあったショッピングモールのベンチにゴウと2人。甲羅を干すカメのように、日向でうなだれながらそう呟いた。

「今は1人にしておこうよ。彼女は絶対また戻ってくるよ、信じてあげよう。」

一枚上手なゴウの返答。妙に冷静で大人びた見方をすることがしばしばあった。返す言葉がなく、ぼくらは彼女の帰りを待つことにした。

 

そこからちょうど2ヶ月後の土曜日。ゴウの言う通り、スズは帰ってきた。

「もう大丈夫だから、心配かけてごめんね。謝ろうと実は近くまで来てるんだ。」

ケータイを切るやいなや、ぼくらはスズの元へ向かった。そして、待ち合わせ場所に着くと、何事もなかったかのように笑顔で振る舞うスズが立っていた。思ってた以上に元気そうだったが、どこか吹っ切れた乾いた印象がそこにはあった。

「おう、オレらは大丈夫や。待ってたで。何があったかはしゃべらんでええからな。帰ってきたんやからそれでいい。」

ウソ言え。本当は1から10まで聞きたいくせに。ただ、ぼくにも最低限のデリカシーが備わっていたようだ。

 

 

「…。あのね…。」

しばらくしてスズは重い口を開き始めた。そう多くは語らなかったが、どうも家族と縁が切れた様子だった。

「本当にこれからも頑張ろうね。あたし、専門学校辞めたから。あと、これが新しいあたしなの。自分らしく生きたい。」

そう言うと、おもむろに襟元をずらし、うなじの下あたりが露わになった。

「??!」

ぼくらは息を飲んだ。そこには自由に希望へと飛び立つため、蝶の羽のタトゥーが入っていたのだ。

★だいまろ★
★だいまろ★
軌道に乗ったと思われたdropに思わぬトラブル!
普段は大人しく自分をあまり出さないスズが爆発。
さぁ、これからどうなってしまうのか~。

・・・次回へ続く!!

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【ブログ小説】おすすめの青春書き下ろし!うたかたの夢(第二話)

 

 

 

 

 

 

 

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