2011年の東日本大震災以降、原発からの脱出、いわゆる脱原発の動きが強まっています。
福島第一原発の事故を見れば、そりゃ当然の流れと思います。
ただ、ぼくが一部のアンチに対し、ずっと憤りを感じていることがあります。
「原発のこと何も知らんやろ?ただの便乗ちゃうんかい!」
まぁ、これに限った話ではありませんが、これまで散々恩恵を受けていたくせに、
何かあると急に反旗をひるがえす風潮…。
これは本当に良くないし、本質を見誤ります。
原発を巡る問題は、本当に難しい。簡単に判断できるものではありません。
だからこそまずは、原発について正しく理解することが重要です!
・原発のメリットとデメリット
・国内の稼働状況
・今後の流れと問題点
全体像を正しく知ったうえで、
原発問題を考える必要があるんだ!
もくじ
原子力発電とは?
まずは、基本知識から説明していきいます。原子力発電とはなんぞや?です。
原子力発電の原理
電気を作るのに必要なものは何でしょうか?それはエネルギーです。
エネルギーを電力に変換することを発電と言います。
自転車の前輪についてるライト分かります?最近あんまり見ないですが。
ペダルこぐ力がタイヤから伝わって光るあのライト!
これも立派な発電で、原理そのものですよね。
それでは、原子力発電の場合を見ていきましょう。
原理は全く同じで、エネルギーを電力に変換するわけなんですが、このエネルギーに核反応を用いるわけです。
小難しい話は割愛しますが、ウランを人為的に核分裂させることで、とてつもないエネルギーが簡単に取り出せます。
こうして、みんなが使う電力に変換し、供給されています。
あるエネルギーを電力に変換する
ことを発電と言うんだ!
原子力発電の仕組み
次に、核エネルギーを電力へ変換する過程を見ていきましょう。
発電に使う主な機器
発電に必要不可欠な機器は、次の4つです。
・タービン(羽根車の熱機関)
・発電機(発電する装置)
・復水器(水蒸気を水に戻す装置)
発電の工程
この4つの機器を組み合わせ、発電しています。その工程は以下の通り。
①原子炉で核反応を起こし、そのエネルギーで水を水蒸気へ
②その水蒸気でタービンを回し、その回転力を発電機で電力にする
③使った水蒸気は、復水器によって水に戻され、再び原子炉へ
つまり、水(=水蒸気)を使ってエネルギーを伝えていき、
原子炉⇒タービン⇒発電機⇒復水器⇒原子炉…
といったループが組まれ、核反応を起こす限り、連続的に発電される仕組みです。
発電方式について
原子力発電の仕組みや工程を学んだところで、次は方式を紹介します。
国内では大きく二つの方式に大別されます。
構造なども詳しく説明したいですが、今回は割愛です。
- BWR(沸騰水型原子炉)
- PWR(加圧水型原子炉)
①のBWRはオーソドックスな先発の方式で、設備全体が汚染される可能性があるため、安全上のリスクが高いです。国内では東芝、日立製作所が手掛け、主に東京電力が採用しています。
一方②のPWRは、安全性を考慮した後発の方式で、汚染区域を原子炉の建屋に限定できるものです。国内では三菱重工業が手掛け、主に関西電力が採用しています。
これらBWR、PWRにはそれぞれ一長一短があるんですが、安全性・低リスクの観点から言えばPWRが妥当でしょうね。
BWRだったということ!
原子力発電のメリットとデメリット
そんな原子力発電にもメリットとデメリットが存在します。震災以来、デメリットばかりがクローズアップされていますが、正しい判断には総合的に知る必要があります。
先にメリットとデメリットをまとめるとこうです。
・安定供給が可能
・環境にやさしい
・使用済燃料の廃却
原子力発電のメリット
まずはメリットから説明します。
その前に以下をご覧ください。これは国内の電力内訳の推移です。
出典:経済産業省HPより
震災前(2010年)は、約30%も原子力に依存していました。
これには当然、メリットがあったから依存していたわけですね。
発電コストが安い
なんだか高いイメージがあるようですが、実は安いんです!
以下は、経済産業省資の試算をまとめたものです。2017年度版のため、少し古いのですが参考にはなるでしょう。
燃料 | コスト(円/kWh) |
石炭火力 | 12.3 |
石油火力 | 30.6 |
風力 | 21.6 |
太陽光 | 24.2 |
原子力 | 10.1 |
ねっ?確かに安いんですよ。
ちなみに、この発電コストがみなさんの電気代に直結するので、無視はできないわけです。
安定供給が可能
燃料のウランは、価格変動が少なく流通性も安定しています。また、一定の発電量を昼夜安定して作り続けますので、ベース発電にもってこいなのです。
環境にやさしい
「えっ?」って思いませんでした?
以下、コストと同じくCO2排出量を比較してみました。
燃料 | CO2排出量(g・CO2/kWh) |
石炭火力 | 943 |
石油火力 | 738 |
風力 | 26 |
太陽光 | 38 |
原子力 | 19 |
おお!CO2の観点から言えば、環境にやさしいですね~。
よく考えれば当たり前です。だって、何も燃やしてないわけですから。
う~ん、奥が深い!
原子力発電のデメリット
次にデメリットを紹介します。これは想像にたやすいかと…。
安全性
言わずもがな、これが一番のリスクです。
震災の教訓から、徹底的な安全対策を取ってはいるものの、万が一にも放射線管理区域が損傷すれば、アウトです…。
今に始まった話ではありませんが、そのリスクは常に付きまといます。
使用済燃料の廃却
これも大きな問題です。使用済燃料を簡単にポイと廃却できないのです。
核燃料サイクルといった、燃料のリサイクルが今後進んでいく予定ですが、既に使用済燃料の貯蔵容量が飽和に近づいています。
経済産業省のデータによれば、既に約75%貯蔵した状態だとか…。
現状、再稼働している発電所も限られているので、一気に飽和することはないですが、ゆくゆくは必ず直面する問題です。早急な核燃料リサイクルの加速と、別の解決策の検討が急務だと言えるでしょう。
総じて安全に関することばかり。
これは過去から避けて通れないもの。
国内の稼働状況
震災以降の原子力発電の現状を説明します。
2020年5月時点の稼働状況です。
西日本を中心に徐々に再稼働しているものの、多くは停止したままです。
先ほどお話しした、発電方式のBWRとPWR。
やはり、放射線区域を最小限にできるPWRから再稼働の認可が下りています。
ただし、安全対策の認可のハードルはとても高いので、ほとんどのプラントが再稼働の目処が立っていません…。
また、プラントには寿命がありますので、古いプラントはそのまま廃炉の可能性大です。
他にも、活断層や海抜など地形的な条件も厳しくなり、立地上、再稼働が望めないプラントまであります…。
これまでフル稼働できていたにも関わらず、後付けの規制で動かせない…。
震災の教訓があるため分からなくもないわけですが、どこか矛盾するやり方に各電力会社も頭を悩ませています。
プラント名 | 電力会社 | 炉型 | 状況 |
泊原子力発電所(1~3号) | 北海道電力 | PWR | 停止中 |
東通原子力発電所(1号) | 東北電力 | BWR | 停止中 |
女川原子力発電所(2~3号) | 東北電力 | BWR | 停止中(2021年再稼働予定) |
東海第二発電所 | 日本原子力発電 | BWR | 停止中 |
柏崎刈羽原子力発電所(1~7号) | 東京電力 | BWR | 停止中 |
浜岡原子力発電所(3~5号) | 中部電力 | BWR | 停止中 |
志賀原子力発電所(1~2号) | 北陸電力 | BWR | 停止中 |
敦賀原子力発電所(2号) | 日本原子力発電 | PWR | 停止中 |
美浜原子力発電所(3号) | 関西電力 | PWR | 停止中 |
大飯原子力発電所(3~4号) | 関西電力 | PWR | 再稼働 |
高浜原子力発電所(1~4号) | 関西電力 | PWR | 3~4号は再稼働 |
島根原子力発電所(2号) |
中国電力 | BWR | 停止中 |
伊方原子力発電所(3号) | 四国電力 | PWR | 再稼働 |
玄海原子力発電所(3~4号) | 九州電力 | PWR | 再稼働 |
川内原子力発電所(1~2号) | 九州電力 | PWR | 再稼働 |
震災前は、これだけの数がフル稼働してたんだ。
これをいきなりゼロには、供給上できないよね。
今後の流れと問題点
それでは、今後の原発の取り巻く環境はどうなっていくのでしょう?
従来型の新設はない?
震災前より新設の話はたくさんありました。中には建設に着工しているものまで…。
現在、これらは計画中止もしくは保留となっています。
再稼働すらままならない状況下、新設は絶望的と言えるでしょう。
ただ、安全性を高めた未来型の方式も開発が進んでいます。
高温ガス炉と呼ばれる方式は、水の代わりにヘリウムガスを用いたもので、理論上は重大事故がほぼ起きないという、最強に安全な炉になってます。
既に日本でもその技術は確立されていて、商用化の開発途上です。
2019年、その研究炉(HTTR)でのノウハウを生かし、ポーランドの商用炉建設に協業するとの発表もありました。
日本原子力研究開発機構は20日、安全性が高い次世代の原子炉とされる「高温ガス炉」の設計などでポーランド国立原子力研究セン…
数十年先になるかもしれませんが、高温ガス炉が日本でも商用化する可能性を秘めています。一つの選択肢として…。
各国が研究と商用化を進めている!
廃炉する発電所が増える?
震災後、寿命40年、1回限り20年の延長ありのルールになりました。
ただ、延長申請はハードル高く、費用も時間も膨大にかさむので、実質は40年退役というところかと思います。
結局は、廃炉が加速する法改正だったと言えるでしょう。
だって、それでなくても再稼働させてもらえない中、古い発電所は延長申請もクリアしないといけないわけで…。
ちなみに海外では寿命の規定は一切ありません。うーん、原発いじめとも取れなくないかと。
後付けの法改正がキツイかと。
代替発電について
当たり前ですが、電力消費量は変わりませんので、原発を止めればその分を別の発電方法で補う必要があります。
近年、クリーンエネルギーは確かに伸びています。
太陽光、風力、地熱、波力、バイオマスetc…。
どれも商用化されて日進月歩といったところですが、まだまだ発電量が圧倒的に少ないのです。
つまり、原子力の穴埋めは火力に頼らざる得ないということです。
先ほどのグラフですが、2010年度と2013年度を比較すれば明らかですね。
結局、化石燃料への依存に逆戻りしたとも言えますね。。。
出典:経済産業省HPより
うーん、分かるんだけど…。
何とも歯がゆいね…。
脱原発の難しさ
福島第一原発の事故は、世界レベルで見ても明らかに重大事故でした。
安全レベルの見直しは当然のことですし、今の世論は分かります。
一方で、原発が大きな雇用を生み出してきたことも事実です。
各電力会社だけではありません。機器メーカー、部品メーカー、工事業者に、メンテナンス業者…。もっと言えば、原発を抱える町や自治体もそうです。
また、脱炭素。つまりはCO2排出規制が叫ばれる昨今、化石燃料へのシフトは時代の逆行とも言えるでしょう。
難しんだけどね…。
まとめ
いかがだったでしょうか?
端折ったり、主観も入ったりしていますが、これが原発のほぼ実態です。
これらを正しく理解したうえで、あなたにも考えてほしい。ただ世論に乗っかってダメというのは止めましょう。
ダメはダメでいいんです、あなたの意見ですから。ただ、ダメはダメでもあなたなりの根拠を持ってほしい!
そして、近未来のエネルギーに対する興味と危機感を持ってほしい!
この記事がそのきっかけになることを、強く望んでいます。